本書では,需要場所における低圧電気設備の安全保護のうち,感電保護,過電流保護および過電圧保護に関する規定として,電気設備技術基準(電技)およびその解釈(電技解釈)とIEC 60364 シリーズを対象に,可能な範囲で両規格を比較しながら解説することとした。電気設備に携わる技術者に対して,電気設備における安全保護の基本的な考え方の理解を促すとともに,具体的な保護方法の選定・施工方法を正しく理解できるように,以下に示す視点から平易に解説しようとするものである。
(1) 故障などが発生する原因とそれによって生じる被害などについて,メカニズムを示すとともに,故障などに対する保護方法の考え方を解説する。
(2) 電気設備の安全保護に関する基準の技術的根拠,工学的背景を解説する。
(3) 電技および電技解釈とIEC 規格とを対比させながら,安全保護の本質的な事項を理解するとともに,国際的な動向の把握の一助とする。
(4) 接地系統の種類と,それらの電気的観点における差異を明確にする。
(5) 安全保護には,故障などが発生しないように事前の対策として行う保護と,それでも発生してしまった故障などによる被害を最小限にするための保護の二つがあることを理解する。
また,設計や施工の実務者が具体的に業務を行う際に役立つように試算例を示し,加えて,電技解釈やIEC 規格の具体的な内容や,それに基づく電気設備の設計方法および計算例などの詳細を,Web 資料に記載した。
【著者からのメッセージ】
電気設備工事は電技とそれを補完する電技解釈などに従って,適切に行わなければなりません。また,海外での電気設備工事においては,その国の基準で行う必要がありますが,多くは国際規格であるIEC規格が活用されています。しかしながら,使用電圧や電気配線の仕組みが国内外で異なることもあり,慣れ親しんだ日本国内の規格とこのIEC規格とを対比させた解説が欲しいところですが,そういった書籍は見当たりませんでした。本書では,低圧(600V以下)の電気設備の安全保護を対象として,電技及び電技解釈とIECの低圧電気設備の安全保護の規格を対比させながら,体系的に理解できるよう解説するとともに,その技術基準の工学的根拠と実際の設計方法までを含めて解説しています。
本書をとおして,電気工事士や電気主任技術者など電気系の資格取得を目指す諸学者,あるいは自治体や企業の電気系技術者,さらには,海外での業務を担当する実務者の方の理解の一助となれば幸いです。
第Ⅰ編 電気設備と安全保護
1.電気設備と安全保護
1.1 使用方法を誤ると危険な電気
1.2 電気設備の安全性とその方策
1.2.1 電気設備の安全性
1.2.2 電気保安四法
1.3 電気設備に関する国内の技術基準
1.3.1 電技
1.3.2 電技解釈
1.3.3 電技および電技解釈の構成
1.4 電気設備に関する国際的な技術基準
1.4.1 IEC60364シリーズ
1.4.2 IEC61936-1
1.5 電技への国際規格の取り入れと適用
1.5.1 電技への国際規格の取り入れ
1.5.2 IEC規格適用上の留意事項
1.6 低圧電気設備における電技解釈とIEC60364シリーズとの比較
1.6.1 基本的な考え方に差異はない
1.6.2 規定内容に差異がある
1.6.3 本書で扱うおもなIEC規格
第Ⅱ編 感電保護
2.感電の本質と接地の役割
2.1 地絡と感電
2.1.1 地絡および感電とは
2.1.2 感電の発生メカニズム
2.2 感電保護における接地の役割
2.2.1 系統接地
2.2.2 保護接地
2.3 接地系統の種類と接触電圧
2.3.1 接触電圧
2.3.2 接触電圧のまとめ
2.4 主要国の接地系統と配電電圧
3.感電における安全限界
3.1 人体を通過する電流の影響
3.2 心室細動の発生メカニズム
3.2.1 心臓のポンプ機能
3.2.2 心室細動の発生
3.3 人体通過電流の安全限界
3.3.1 IEC規格
3.3.2 低圧地絡保護指針
3.3.3 限界値の比較
3.4 接触電圧の制限
3.4.1 IEC規格における安全電圧
3.4.2 低圧地絡保護指針
3.4.3 電技解釈
4.感電保護の考え方とその対策
4.1 感電保護の種類と体系
4.1.1 IEC規格
4.1.2 電技解釈
4.1.3 電技解釈とIEC規格の差異
4.2 基本保護(直接接触保護)
4.2.1 基礎絶縁の種類
4.2.2 IEC規格の離隔
4.2.3 電技解釈での離隔
4.3 故障保護(間接接触保護)
4.3.1 電源の自動遮断による故障保護
4.3.2 電気的分離
4.3.3 非導電性環境による保護
4.3.4 離隔(電技解釈のみの故障保護)
4.3.5 低抵抗接地による保護(電技解釈のみの故障保護)
4.4 二重絶縁または強化絶縁
4.4.1 二重絶縁
4.4.2 強化絶縁
4.5 低電圧による保護
4.5.1 IEC規格
4.5.2 電技解釈
4.5.3 IEC規格と電技解釈の比較
第Ⅲ編 過電流保護
5.過負荷保護
5.1 配線設備の過負荷保護の原則
5.2 回路の設計電流
5.2.1 IEC規格
5.2.2 電技解釈(幹線)
5.3 配線の許容電流
5.3.1 IEC規格
5.3.2 電技解釈(絶縁電線)
5.3.3 内線規程(ケーブル)
5.3.4 IEC規格と電技解釈,内線規程による許容電流の求め方の相違点
5.4 過負荷保護装置の選定
5.5 分岐回路の過電流保護(電技解釈のみ)
6.短絡保護
6.1 配線の短絡保護の原則
6.2 短絡保護装置の設置
6.2.1 設置位置
6.2.2 移動および省略
6.2.3 省略する場合の注意点
6.2.4 電源側のインピーダンスが大きい場合の注意点
6.3 推定短絡電流
6.3.1 推定短絡電流を求める方法
6.3.2 IEC規格によるトライアングル法則
6.3.3 電技解釈による短絡保護装置の遮断電流
6.4 短絡保護装置の選定
6.4.1 全容量遮断方式
6.4.2 限流遮断方式
6.4.3 カスケード(バックアップ)遮断方式
6.5 配線設備の短絡時許容電流
6.5.1 IEC規格
6.5.2 日本電線工業会規格JCS0168-1
6.5.3 IEC規格とわが国の短絡時許容電流の比較
7.過電流保護の実施
7.1 各施設形態における実施例
7.1.1 系統パターンに応じた過電流保護装置の配置
7.1.2 系統パターン別過電流保護の特徴
7.2 過電流保護装置
7.2.1 中性線の保護―多相系統の中性線の遮断および投入
7.2.2 高調波環境における多相系統の中性線の保護
7.3 過電流保護装置の動作協調
7.3.1 過負荷保護装置の動作協調
7.3.2 全容量遮断における短絡保護装置の動作協調
7.4 過電流保護に関連する法令および規格
第Ⅳ編 過電圧保護
8.高圧側の故障による過電圧
8.1 発生のメカニズム
8.1.1 高圧側の地絡
8.1.2 高低圧混触
8.2 低圧側に発生する過電圧の大きさ
8.2.1 高圧側の地絡
8.2.2 高低圧混触
8.2.3 低圧側発生過電圧の一覧
8.3 過電圧の保護対策
8.3.1 電圧の制限値
8.3.2 IEC規格によるRAの算出
8.3.3 電技解釈によるRBの算出
9.低圧側の故障による過電圧
9.1 中性線欠相による過電圧
9.1.1 発生のメカニズム
9.1.2 保護対策
9.2 多相回路における充電線1線地絡による過電圧
9.2.1 発生のメカニズム
9.2.2 発生する過電圧
9.2.3 保護対策
10.大気現象による過渡過電圧
10.1 雷サージ過電圧の発生メカニズム
10.2 雷サージの種類と雷保護規格
10.2.1 雷サージの種類
10.2.2 雷保護規格
10.3 配電線伝搬雷サージに対する保護対策
10.3.1 過電圧カテゴリとインパルス耐電圧
10.3.2 過渡過電圧抑制のための措置
10.4 直撃雷に対する低圧機器の保護対策
資料A2接地線および接地極の共用に関する考察
資料A4IEC規格における漏電遮断器の最大遮断時間の設定
資料A7接地設備の構成と要求性能
資料C1過電圧の発生と保護の考え方
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