日本政府は「2050年までに脱炭素化実現」を表明し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを達成することを目指し様々な取り組みを行っている。本特集では2050カーボンニュートラルに関わる各セクターの取り組みと脱炭素に資する製品・技術を紹介する。
政策動向、自治体の取り組み、企業経営、団体・個人の動きなどの社会動向に関する情報提供と、脱炭素や省エネ、環境配慮などに関する製品や技術を紹介する。
■特集:2050カーボンニュートラルに向けて
○2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略/経済産業省/エネルギー・環境イノベーション戦略室
日本は、2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、14の重要分野について実行計画を策定し、国として高い目標を掲げ、企業の前向きな挑戦を後押しするため、あらゆる政策を総動員している。
○2050年カーボンニュートラルに向けた今後の省エネ政策について/経済産業省/江澤 正名
2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、産業・民生・運輸の各部門において徹底した省エネと再生可能エネルギー等の非化石エネルギーへの転換を進めることが重要である。本稿では、各部門における省エネ対策と今般成立した省エネ法の改正内容について述べる。
○IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書の概要/(国研)国立環境研究所/花岡 達也
1.5℃目標に向けて、早期に大幅な温室効果ガスの削減が不可欠である。最新のIPCC第6次評価報告書の「自然科学的根拠」「影響・適応・脆弱性」「気候変動の緩和」の各作業部会における「政策決定者向け要約」の主なメッセージについて、緩和策を中心に解説をする。
○COP26の概要と今後の展望/(国研)国立環境研究所/亀山 康子
2021年秋に英国・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に関し、経緯と同会議の概要、その後の進展を述べる。主なテーマは長期目標として気温上昇幅1.5℃を目指すことに合意することだった。合意は得られたが今後は実際の達成方法が課題となる。
○2050年ゼロエミッション、2030年カーボンハーフの実現に向けて/東京都 環境局/神山 一
東京都は、2050年までに世界のCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現するため、2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減( 2000年比)する、「2030年カーボンハーフ」を目指している。その実現に向けた道筋や、各部門で加速・強化する主な取り組みについて紹介する。
○東急コミュニテイー技術研修センター/NOTIA/清水建設(株)/中本 俊一
建物管理企業の技術者研修施設であり、単なる省エネに配慮された研修施設に留まることなく、敷地面積の限られる都市部において、蓄エネ、創エネを効果的に導入し、さらに竣工後も研修施設として学びながら消費エネルギー量を減らす取り組みを取り入れ、都市型中層建築ZEBを実現した。
○新菱神城ビルのカーボンニュートラルへの取り組み/(株)三菱地所設計/羽鳥 大輔・平須賀 信洋・加藤 駿/ 新菱冷熱工業(株)/坂本 裕・五十嵐 瞳/芝浦工業大学/秋元 孝之
新菱神城ビルは都内の中規模事務所ビルであり、変風量コアンダ空調・ダイナミックレンジ放射空調の2種類のダクトレス空調による省エネルギー技術と、ファサード面の階段室による自然換気と外皮負荷抑制により、BELS 評価でZEB Readyを取得、運用実績でBEI=0.37相当の省エネルギー化を実現した。
○ZEB観光交流拠点施設『佐田岬はなはな』/(株)カイトアーキテクツ/京 智健/(株)YAP/山口 陽登・大坪 良樹/(株)日本設計/生島 宏之・大山 直樹・小見山 堤子
愛媛県伊方町の豊かな自然や集落の特徴を活かした、NearlyZEBの観光交流拠点施設である。地中熱利用や太陽光発電、青石による石垣放射など、デザインと設備を統合する独自の設備システムを構築した。運用後1年を計量データをもとに分析し、それらが有効に省エネに寄与したことが分かった。
○愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)の光・風・水・熱源の最適運用によるZEB化/(株)竹中工務店/石橋 良太郎・細沢 貴史
愛知県国際展示場は環境配慮型展示場として、中部国際空港から世界に発信できる省エネルギー施設として計画された。自然エネルギーを最大限活用しつつ、イベント毎に負荷変動の大きい展示場の特性に合わせたフレキシビリティを備えており、今後様々な大空間建築に応用展開が図れる。
○みやこ下地島空港ターミナル/(株)日建設計/浅川 卓也・永瀨 修・原田 尚侑
みやこ下地島空港は、その土地の空気や雰囲気を五感で感じることができるよう、自然を積極的に建物に取り込んだオープンエアな空間が特徴である。高温多湿な沖縄でオープンエアなランドスケープとCLTを活用した木質内装、なおかつ快適で省エネルギーなZEB 空港について紹介する。
○地熱発電を温泉街の復興に生かす/(公財)自然エネルギー財団/石田 雅也
東日本大震災の被害を受けた福島県の土湯温泉では、源泉から湧き出る蒸気と熱水を利用して2015年から地熱発電を実施している。発電事業の収益を配湯設備のメンテナンスなどに役立てながら温泉街の復興を推進中だ。発電に利用した後の温泉水の熱を使ってエビの養殖にも取り組む。
○千葉県匝瑳市における地域課題を解決する再生可能エネルギーの活用/(公財)東京財団政策研究所/平沼 光
カーボンニュートラルに向けて再生可能エネルギー(再エネ)の普及が求められているが、地域由来のエネルギーである再エネの活用においては地域の理解と協力が必要となる。本稿では千葉県匝瑳市で地域主体による再エネ普及と地域活性化に取り組んでいる営農型太陽光発電の事例を紹介する。
○“脱炭素型”EVシェアとエネルギーマネジメント/小田原市/倉科 昭宏
小田原市では脱炭素社会の実現を見据え、再エネの導入拡大と並行して蓄電池を活用した面的なエネルギーマネジメントを推進。EVの“動く蓄電池” としてのポテンシャルに着目し、シェアリングEVを活用したエネルギーマネジメント事業を公民連携し実施している。
〔2050カーボンニュートラルに向けた設計事務所の取り組み〕
○NTTファシリティーズのカーボンニュートラルサポート/(株)NTTファシリティーズ/鎌田 貴浩
NTTファシリティーズは、NTTグループ全体のエネルギーマネジメントに取り組んできた実績で培った「働き方、ファシリティ、エネルギー」のノウハウを掛け合わせ、カーボンニュートラルをめざす企業・自治体向けに総合的視点で支援するカーボンニュートラルサポートサービスを開始した。
○日建設計における考え方と具体的な取り組み・提案/(株)日建設計/丹羽 勝巳・小林 弘造・久保木 真俊
日本の温室効果ガス排出の約1/3は業務・家庭由来であり、都市と建築のデザインに関わる設計事務所の役割は重要である。本稿では、日建設計のカーボンニュートラルへの取り組みとクライアント・社会に向けた六つの提案、そこから具現化した二つの施策を紹介する。
○日本設計の脱炭素への取り組み/(株)日本設計/柳井 崇
カーボンニュートラルの実現に向けては、ライフサイクルの視座や街づくりといった幅広い視点からの取組が必要とされる。こうした背景から、当社が注力する四つの視点である「エネルギー」、「木質木質化・材料」、「ストック活用」、「まちづくり」に沿って、問題意識や取り組みを紹介する。
○組織設計事務所として取り組むべきこと、貢献できること/(株)松田平田設計/塩出 和人
環境影響の大きい非住宅建築物の設計に従事する組織設計事務所として、カーボンニュートラルに向けた社会貢献として何ができるか、どのように考えアプローチをしているか、新築、ZEB 改修検討の実務事例を通して紹介する。
○三菱地所設計のカーボンニュートラルに向けた取り組みと設計事例の紹介/(株)三菱地所設計/羽鳥 大輔
カーボンニュートラルが求められる中で、計画初期から感度分析を行い、数々のZEB 化設計を行っている。そして建物価値の向上のため「歓共健築」を掲げ、健康や知的生産性向上も同時に実現している。また、既存ビルのZEB 化も積極的に取り組んでいる。
○脱炭素社会の実現に向けた私たちの取り組み/(株)安井建築設計事務所/井上 孝成
当社は、脱炭素社会の実現に向けて積極的に取り組むべく、2021年10月に「カーボンニュートラルへの取り組み」を宣言している。宣言における三つの取り組み姿勢とその活動内容、また、取り組みを推進するための体制について紹介する。
〔2050カーボンニュートラルに向けた総合建設企業の取り組み〕
○新しいグループ環境ビジョン「SHIMZ Beyond Zero 2050」/清水建設(株)/伊東 浩司
2021年に公表したグループ環境ビジョン「SHIMZ BeyondZero 2050」では、2050年までに自社活動による負の影響ゼロだけでなく、ユーザーや社会にプラスの環境価値を提供することを目指す。本稿では「脱炭素社会」実現に向けた取り組みを中心に紹介する。
○大成建設の環境方針・目標/大成建設(株)/岩崎 広江
当社は2013年に策定した2050年目標「TAISEI GreenTarget 2050」において「低炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」「安全が確保される社会」の四つの社会の実現を定めていたが、日本政府のカーボンニュートラル宣言を受けて2021年に「低炭素社会」から「脱炭素社会」へ改定し、「2050年事業活動におけるCO2排出量実質0」を目指す。
○建物ライフサイクルにわたる脱炭素の取り組み/(株)竹中工務店 林 健太郎
当社は 2021年3月、C O 2削減長期目標を改定し 2050年のカーボンニュートラルを目指すこととした。オフィス・作業所・設計した建物の運用時・S cope1~ 3全体についてそれぞれ 2030年の中間目標を設定している。各活動領域における取り組み状況を紹介する。
〔2050カーボンニュートラルに向けた設備関連企業の取り組み〕
○三機工業におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みと環境関連技術の紹介/三機工業(株)/髙木 禎史・半田 大介
エネルギーを使用する設備をユーザーに提供する当社は、事業活動そのものがユーザーの温室効果ガス排出量削減、脱炭素社会の実現に大きく貢献できると考えている。カーボンニュートラルへ向け本格的に動き出した当社の取り組みと、環境関連技術を紹介する。
○2050年カーボンゼロに向けた新日本空調の取り組み/新日本空調(株)/星野 昌亮
新日本空調グループは、持続可能な地球環境の実現のために、気候変動に対する緩和と適応の対策や環境への負の影響の最小化に向け、環境問題を経営の重要事項と位置づけ、全ての業務プロセスにおいて、脱炭素社会の実現に向けた活動を推進している。
○新菱冷熱の脱炭素社会実現へのアプローチ/新菱冷熱工業(株)/松本 充代・酒本 晋太郎・福井 雅英
2050年カーボンニュートラルを目指した活動概要の他、当社研究所本館の建築をモデルケースに BIMをフル活用した新たな業務プロセスにより建物のライフサイクル全体で脱炭素化を目指す取り組みと、DHCプラントの冷却水温度などを AIで最適に制御するシステムを紹介する。
○マイクログリッドでのグリーン水素の活用/高砂熱学工業(株)/万尾 達徳
当社は、北海道石狩市厚田地区で、太陽光発電、蓄電池、および水素システムを組み合わせた、マイクログリッドを設置した。本グリッドは、「防災機能を有する持続可能な低炭素型マイクログリッド」で、水素エネルギーシステムと EMSでの制御を組み合わせることで、安定的な電力の供給と非常時の電力供給を可能とするシステムである。
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