2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて、建築・設備分野では様々な取り組みが実践されています。中でも再生可能エネルギーの利活用は大きな関心を集めています。再エネ電力の促進に加え、省エネルギーの定着も併せた取り組みが求められています。
本特集ではカーボンニュートラルの空気調和や給排水衛生設備の切り札となる再生可能エネルギー熱の中でも地中熱の動向・導入事例を紹介し、広く建築設備関係者が活用できる内容です。
○地中熱・特集にあたって青森県、福島県、ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州の地中熱の状況を踏まえて/東北文化学園大学/赤井仁志
10年半ぶりに地中熱の特集号になることから、前回(2013年1月増刊号)の概要を記した。また、青森県と福島県は、原子力発電と関連施設があったり、太陽光発電や風力発電等の再エネ電力が増えたりしているが、地元の関連産業の振興や集積、雇用の創出につながっていない。そこで、両県の再エネ熱分野の地中熱の状況に触れた。福島県は再生可能エネルギーを推進するために海外連携をはかったが、その多くがドイツであることから、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州の地中熱の普及や補助金、地中熱産業に触れる。
○日本の地中熱利用の動向/NPO法人地中熱利用促進協会/笹田政克
2021年度までの地中熱利用状況と「地中熱利用にあたってのガイドライン第4版」を紹介する。ZEB/ZEHへの地中熱の導入についてと、技術開発の動向に絡めて地中熱利用の展望を述べる。
○世界の地中熱ヒートポンプシステム(GSHP)の動向/北海道大学/長野克則
本稿はまず、世界的な熱需要のヒートポンプへの転換加速について述べた。次に、欧州・中国・米国のGSHP市場について概説し、欧州の発展としてスイスの第5世代地域熱供給(5GDHC)の二つの実例、および中国での超大規模GSHPの出現と北京大興空港の事例を紹介した。
○オランダと日本の帯水層蓄熱 帯水層蓄熱で失敗しないために/大阪公立大学/中曽康壽
わが国でも地下水の熱源利用は散発的に行われてきたが、エネルギー需要の旺盛な大都市圏では、地盤沈下による厳しい揚水規制と、沈下抑制を目的に試みられた還元用の井戸の閉塞によって、長くその途が閉ざされていた。環境省の技術開発・実証事業で取り組んだ帯水層蓄熱の成果と、課題解決の方法について紹介する。
○再エネ時代の地中熱の高効率運用を目指して/広島大学/金田一清香
広島大学で現在進行中のカーボンニュートラルおよび地中熱導入の取り組みの他、温暖地の個別分散式空調への地中熱ヒートポンプの利用拡大に向けた、再エネ電力の需給調整に寄与する蓄熱対応型の新規システムの構想について述べる。
○熱応答試験方法の概要と技術開発の動向/(国研)産業技術総合研究所/冨樫聡・石原武志
いくつかの熱応答試験方法を概説するとともに、調査孔に設置したヒーターケーブルと多点温度センサーを用いる熱応答試験の実施事例(見かけ熱伝導率の推定事例)を示す。また、最新の熱応答試験に関係する技術開発の動向についても紹介する。
○地中熱利用のロードヒーティング/ミサワ環境技術(株)/田中雅人・重岡直紘
地中熱を利用したロードヒーティングの概要を説明し、施設のエントランス付近の路面にロードヒーティングが設置された事例として、福島県の道の駅と広島県の病院に採用された設備の概要を紹介する。
○透析熱回収ヒートポンプシステム透析病院における再生可能エネルギー熱利用ヒートポンプによる省エネルギー/ゼネラルヒートポンプ工業(株)/柴芳郎/(株)ウォーターテクノカサイ/笠井庸三
今回開発した透析熱回収ヒートポンプシステムSmartESystemは、今まで未踏であった医療分野でのヒートポンプによる排熱回収を適用した製品である。透析病院において治療で排出される廃液から熱だけをヒートポンプで回収することにより大幅な省エネを実現した。
○持続可能な暮らしに向けた地中熱利用/(株)長府製作所/村上知詠里
当社は、2004年より地中熱ヒートポンプの開発・製造・販売を行ってきた。本稿では、暮らしと密接する「住まい」や食を支える「農業分野」で取り組まれる、脱炭素化・省エネルギー化の動向と、地中熱を活用したエネルギー転換の事例を紹介する。
○水の都熊本における大規模かつ持続可能な地下水熱利用/(株)日建設計/佐々木教道・安澤百合子/(株)関電エネルギーソリューション/高橋征治/(株)日建設計総合研究所/湯澤秀樹/(株)日さく/高橋直人
水の都熊本にて大規模で高効率な地下水熱利用熱源システムを計画した。地下水量保全と水質維持を図りながら持続性を高める工夫を行い周辺地域への影響低減に配慮した。運用段階では周辺地下水環境に影響がない状況を確認しながら確実に熱源システムの運転性能の向上を図った。
○五所川原市庁舎/(株)佐藤総合計画 渡邉 森
五所川原市庁舎に採用された大規模な地中熱利用システムの事例を紹介する。様々な省エネルギー手法や自然エネルギーを活用した庁舎建築が、東北地方の積雪寒冷地特有の課題に対し、地中熱を空調熱源や無散水融雪に有効利用した実例となっている。
○豊富な地下水を最大限に活かした酒田市庁舎における熱源設備計画/(株)日本設計/北原知治・坂部高士
庁舎の基礎杭を利用した大規模な地中熱利用熱源システムを採用した。あわせて、冬期に融雪設備として利用している井水を夏期の熱源冷却水として使うことで、さらなる高効率な熱源システムを構築した。竣工後のエネルギー検証にて、既設庁舎の約50%の一次エネルギー消費量削減を確認した。
○南三陸町役場庁舎/(株)久米設計/氏家純
南三陸町役場庁舎は2011年の東日本大震災の大津波により流出したが、町の復興拠点として震災から6年後に再建された。地場産の木を利用した建築、地中熱ヒートポンプを利用した空調システム等の環境・設備の取り組みの紹介と、熱応答試験と竣工後の実測結果を紹介する。
○再エネ先駆けの地・ふくしまでの動向地中熱を中心とした再生可能エネルギー熱の動向/福島県地中熱協同組合/須藤明徳
福島県では東日本大震災に伴う原子力災害を経験してから、エネルギー施策を重要課題として位置づけられた。再生可能エネルギーとは創エネと省エネに区分され、地中熱は省エネに区分される。本稿では、東日本大震災後の県内における組合での地中熱の取り組み事例を紹介する。
○アミティ舞洲における空調設備/W-ATES/(株)森川鑿泉工業所/矢吹綾
二層の帯水層がある場合、保有する地下水を混合させることなく揚水し還元することができれば、1本の井戸で2倍の容量を得られる。都市部の狭小地向けに二層利用帯水層蓄熱(W-ATES)を開発した。本稿では、井戸構築の要点や考え方を紹介する。
○東京エレクトロン松島クラブ国内最大級の地中熱利用空調設備を採用した保養・研修施設/(株)テーテンス事務所/村田大輔
景勝地である松島湾を一望できる高台の保養・研修施設に、国内最大級の地中熱利用空調設備を全館に採用した。地中熱ヒートポンプエアコンは寒冷地でも省エネルギー性に優れているだけでなく、熱源機器を室内化することで景観に配慮でき、かつ重塩害地域でも長寿命を実現できる。
○積雪寒冷地域における高効率帯水層蓄熱システムを利用した『ZEB』の実現/日本地下水開発(株)/桂木聖彦
積雪寒冷地域である山形県山形市に、高効率帯水層蓄熱システムを導入したZEB実証施設を建設し、2年以上にわたって運用してきた。その結果、2021年度と2022年度と続けて『ZEB』を達成することができた。高効率帯水層蓄熱システムは、蓄熱効果により高効率稼働を実現し、空調・給湯稼働に伴う消費電力量の低減に寄与した。
○ESCO事業によってリニューアルした温水プール妙高市「水夢ランドあらい」/ミサワ環境技術(株)/駒澤昭彦・進堂晃央
妙高市の温水プール「水夢ランドあらい」は、ESCO事業を活用し、熱源システムをガスボイラーから地中熱ヒートポンプを主熱源とした併用システムに改修した。本稿では省エネルギー型の施設としてリニューアルした「水夢ランドあらい」の施設概要と運用開始後の省エネ効果について紹介する。
○薩摩川内市コンベンション施設/(株)石本建築事務所/関根能文・野口亮・金原浩志
鹿児島県薩摩川内市の従来の「エネルギーのまち」を発展させた、官民一体となった「次世代エネルギーを活用したまちづくり」を推進する取り組みの一環としてオンサイトで再生可能エネルギーを導入した事例を紹介する。
○水と大地を見つめ地球環境との共存地中熱の利用推進と技術開発/(株)ハギ・ボー・小野俊夫・中澤俊也
山梨県で地中熱の利用推進をリードする当社は、行政・民間建物における空調、床暖房、農業分野におけるハウスの加温/冷却、温泉施設や介護施設における給湯/加温など多様な用途で実績を残し、地中熱利用による脱炭素化とランニングコストの低減をサポートしている。
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